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神戸地方裁判所 昭和60年(ワ)743号 判決 1989年4月25日

昭和六〇年(ワ)第七四三号事件原告(反訴被告)

株式会社兵庫相互銀行

ほか一名

昭和六〇年(ワ)第七八六号事件原告(反訴被告)

神戸相互タクシー株式会社

ほか一名

昭和六〇年(ワ)第七四三号・第七八六号事件被告(反訴原告)

足立敏明

ほか一名

主文

一  昭和六〇年(ワ)第七四三号債務不存在確認請求事件原告(反訴被告)株式会社兵庫相互銀行、同事件原告中村育子、同中村佳代、同中村加奈と同事件被告(反訴原告)足立敏明、同浜岡範行との間で、同原告(反訴被告)株式会社兵庫相互銀行、同事件原告中村育子、同中村佳代、同中村加奈の同事件被告(反訴原告)足立敏明、同浜岡範行に対する別紙第二事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務がいずれも存在しないことを確認する。

二  昭和六〇年(ワ)第七八六号債務不存在確認請求事件原告(反訴被告)神戸相互タクシー株式会社、同佐藤利一と同事件被告(反訴原告)足立敏明、同浜岡範行との間で、同事件原告(反訴被告)神戸相互タクシー株式会社、同佐藤利一の同事件被告(反訴原告)足立敏明、同浜岡範行に対する別紙第一事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務がいずれも存在しないことを確認する。

三  反訴原告(昭和六〇年(ワ)第七四三号事件、同年(ワ)第七八六号事件被告)足立敏明、同浜岡範行の反訴請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中昭和六〇年(ワ)第七四三号債務不存在確認請求事件原告(反訴被告)株式会社兵庫相互銀行、昭和六〇年(ワ)第七八六号債務不存在確認請求事件原告(反訴被告)神戸相互タクシー株式会社、同佐藤利一と右各事件被告(反訴原告)足立敏明、同浜岡範行の分は、本訴反訴を通じ全部右各事件被告(反訴原告)足立敏明、同浜岡範行の、昭和六〇年(ワ)第七四三号債務不存在確認請求事件原告中村育子、同中村佳代、同中村加奈と右事件被告足立敏明、同浜岡範行間の分は、全部右事件被告等の、各負担とする。

事実

以下、「昭和六〇年(ワ)第七四三号債務不存在確認請求事件原告(反訴被告)株式会社兵庫相互銀行」を「原告銀行」と、「同事件原告中村育子、同中村佳代、同中村加奈」を「原告中村等」と、「昭和六〇年(ワ)第七八六号債務不存在確認請求事件原告(反訴被告)神戸相互タクシー株式会社」を「原告タクシー会社」と、「同事件原告(反訴被告)佐藤利一」を「原告佐藤」と、「昭和六〇年(ワ)第七四三号、同年(ワ)第七八六号各債務不存在確認請求事件被告(反訴原告)足立敏明、同浜岡範行」を「被告足立、同浜岡」と、各略称する。

第一当事者双方の求めた裁判

一  本訴

1  原告タクシー会社、同佐藤

(一) 主文第二項同旨。

(二) 訴訟費用は、被告等の負担とする。

2  原告銀行、同中村等

(一) 主文第一項同旨。

(二) 訴訟費用は、被告等の負担とする。

3  被告足立、同浜岡

(一) 原告等の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は、原告等の負担とする。

二  反訴

(一)  被告足立、同浜岡

(1) 原告タクシー会社、同佐藤は、

(イ) 被告足立に対し、連帯して金三五五万七二六一円及びこれに対する昭和六一年二月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(ロ) 被告浜岡に対し、連帯して金三〇三万八五六八円及びこれに対する昭和六一年二月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(2) 原告銀行、同タクシー会社、同佐藤は、

(イ) 被告足立に対し、連帯して金四七四万七一六五円及びこれに対する昭和六一年二月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(ロ) 被告浜岡に対し、連帯して金四七八万七四〇〇円及びこれに対する昭和六一年二月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(3) 反訴費用は、原告等の負担とする。

(4) 仮執行の宣言。

(二)  原告タクシー会社、同佐藤、同銀行

(イ) 主文第三項同旨

(ロ) 反訴費用は、被告足立、同浜岡の負担とする。

第二当事者双方の主張

一  本訴

1  原告等の請求原因

(一) 原告タクシー会社、同佐藤

(1) 別紙第一事故目録記載の交通事故(以下第一事故という。)が発生した。

(2) 被告足立、同浜岡は、右事故により、頸部損傷、腰部捻挫等の受傷をしたとして、右事故当日である昭和六〇年一月八日から同月一三日まで、神戸市灘区桜口町四丁目所在うすき病院へ通院し、同月一四日から右病院へ入院した。

(3) しかしながら、右事故の経過及び態様の詳細は、次のとおりであつて、被告等に右治療を要するが如き受傷は、発生していない。

(イ) 原告佐藤は、右事故当日午後四時三〇分頃、被告足立、同浜岡を乗客として佐藤車の後部座席に乗せ右事故現場付近(尼崎市若王子一丁目)の交差点に至り、右交差点の対面信号機の標示が赤色であつたところから停止し右標示が青色に変わるのを待つていた。そして、原告佐藤は、右標示が青色に変わるとともに、右車両を発進させ、右交差点を左折して約一九メートル進行したところ、同車両の右前輪部ボールジヨイントが破損したため、右前輪の安定性を欠くことになつたので制動を加えながら約四メートル走行して停止した。

(ロ) 佐藤車の右前輪部ボールジヨイントが破損した当時における同車両の速度は、前叙のとおり発進した直後のことでありせいぜい時速約一〇ないし二〇キロメートルである。したがつて、右車両が右破損によつて右前輪部の方向に車体が若干傾くことはあつても、右車両には、同車両後部座席の乗客がそれによつて頸部損傷、腰部捻挫等の傷害を受ける程の衝撃が生じていない。

(4) しかし、被告足立、同浜岡は、同人等において右事故により前叙受傷をしたと主張し、原告タクシー会社、同佐藤に対し、右受傷に基づく損害賠償の請求をしている。

(5) よつて、原告タクシー会社、同佐藤は、本訴により、原告等と被告足立、同浜岡との間で、原告等の被告等に対する第一事故に基づく損害賠償債務が存在しないことの確認を求める。

(二) 原告銀行、同中村等

(1) 別紙第二事故目録記載の交通事故(以下第二事故という。)が発生した。

(2) 亡中村安弘(以下亡中村という。)は、第二事故当時原告銀行の従業員であり同銀行の業務執行中前方不注視の過失により右事故を惹起した。

(3) しかし、右事故は、亡中村が対面信号機の赤色標示にしたがい中村車を停止させようとした際、自車前方の車線が通行車両により混雑していたのですいている自車右側車線に進路変更した時発生したものであり、中村車の本件衝突時における速度は極めて低く、現に右事故により物損は、バンパーに僅かな瑕が生じたに過ぎず、その修理費も金三万五〇〇〇円に過ぎない。

(4)(イ) 被告足立、同浜岡は、第二事故当時、第一事故により受傷したとして、うすき病院に入院し治療中であつたが、第二事故の前叙の如き軽微な衝撃でその容態が悪化することは考えられず、被告等に損害の発生はあり得ない。

(ロ) しかるに、被告足立、同浜岡は、第二事故により頸部損傷の傷害を受けたとし、右うすき病院に入院を継続し、原告銀行、同中村等に対し損害賠償の請求をしている。

(5) よつて、原告銀行、同中村等は、本訴により、原告銀行、同中村等と被告足立、同浜岡の間で、原告等の被告等に対する第二事故に基づく損害賠償債務が存在しないことの確認を求める。

2  本訴請求原因に対する被告等の答弁及び抗弁

(一) 答弁

(1) 原告タクシー会社、同佐藤関係

請求原因(1)、(2)の各事実は認める。被告等は第一事故により真実受傷した。同(3)(イ)の事実は、別紙第一事故目録四に記載された事故の態様の範囲内で認め、その余の事実は、否認。本件第一事故は、佐藤車が原告等主張の交差点から約三〇メートル進行したところで発生したものである。右車両は、右事故により、その右前前輪がはずれ、車体が右方に傾いたまま、がたがたと走行して、歩道と車道の段差のところで停止した。その間、被告両名は、大きな衝撃を受けた。同(ロ)の事実は否認。同(4)の事実は認める。同(5)の主張は争う。

(2) 原告銀行、同中村等関係

請求原因(1)、(2)の各事実は認める。同(3)の事実は否認し、その主張は争う。同(4)(イ)中被告足立、同浜岡が第二事故当時第一事故により受傷したとしてうすき病院に入院し治療中であつたことは認めるが、その余の事実及び主張は争う。同(ロ)の事実は認める。同(5)の主張は争う。

(二) 原告中村等に対する抗弁

被告足立、同浜岡が第二事故により蒙つた損害は、反訴請求原因で主張するとおりである。

よつて、右主張を、原告中村等に対する抗弁として引用する。

3  抗弁に対する原告中村等の答弁

抗弁事実及び主張は全て争う。

二  反訴

1  被告足立、同浜岡の反訴請求原因

(一) 第一事故、第二事故が発生した。

(二) 被告足立、同浜岡の右各事故による受傷内容及びその治療経過は、次のとおりである。

(1) 受傷内容

(イ) 第一事故

被告足立 頭部打撲、頸部損傷、腰部捻挫。

同 浜岡 頸部損傷、腰部捻挫。

(ロ) 第二事故

被告足立 頭部打撲、頸部損傷。

同 浜岡 頸部損傷、腰部打撲。

(2) 治療経過

被告足立、同浜岡とも

うすき病院 昭和六〇年一月八日から同月一四日まで通院。

昭和六〇年一月一四日から同年五月二四日まで入院。

昭和六〇年五月二五日から同年七月二六日まで通院。

被告両名とも、昭和六〇年七月二六日、これ以上治療効果がないとして治療を打ち切られた。

障害等級一四級一〇号該当の後遺障害が残存。

(三) 原告等の責任は、次のとおりである。

(1)(イ) 原告タクシー会社は、第一事故当時、佐藤車を所有していた。そして、右事故は、原告タクシー会社の従業員原告佐藤が原告タクシー会社の業務執行中次の過失により惹起したものである。

(ロ) 原告佐藤は、右事故当時、佐藤車を運転していて、車両整備や安全点検の義務に違反する過失により右事故を惹起した。

(2) 原告銀行は、第二事故当時、中村車を所有していた。そして、右事故は、原告銀行の従業員訴外亡中村が原告銀行の業務執行中前方不注視の過失により惹起したものである。

(3) よつて、

(イ) 原告タクシー会社には、自賠法三条民法七一五条により、原告佐藤には、自賠法三条民法七〇九条により、被告足立、同浜岡が第一事故によつて蒙つた後叙損害を賠償する責任がある。

(ロ) 原告銀行には、自賠法三条民法七一五条により、被告足立、同浜岡が第二事故により蒙つた後叙損害を賠償する責任がある。

(ハ) しかして、原告タクシー会社と原告佐藤の責任関係は、連帯責任である。

更に、被告足立、同浜岡の第二事故後の本件損害には、第一事故による受傷も関与しているから、原告タクシー会社、同佐藤、同銀行は、連帯して右損害に対する賠償責任を負う。

(四) 被告足立、同浜岡の本件損害は、次のとおりである。

(1) 治療費

被告足立 金四三八万七七二五円(内昭和六〇年四月九日以降分金一七四万九四七五円)。

同 浜岡 金三六八万六三七五円(内昭和六〇年四月九日以降分金一六五万一六七五円)。

(2) 入院雑費

被告足立、同浜岡とも、金一三万一〇〇〇円(内昭和六〇年四月九日以降分金四万六〇〇〇円)。

(3) 休業損害

被告足立 金二四七万二九八六円

(内昭和六〇年四月九日から同年七月二六日までの分は金一三三万五四一三円)

(イ) 被告足立は、第一事故及び第二事故の受傷により昭和六〇年一月八日から同年七月二六日まで休業した。

(ロ) 同人は、第一事故当時露店の行商に従事していたところ、同人の収入に関する公的証明方法がない。

そこで、東京三弁護士会交通事故処理委員会編民事交通事故訴訟損害賠償算定基準昭和六〇年版(以下単に「基準」という。)の年齢別給与額表により同人の右事故当時における収入を定めるのが相当であるところ、同人は右事故当時三八歳の男子であつたから、右給与額表による該当給与の平均月額は、金三七万六一〇〇円である。

(ハ) 右各事実の基づき、同人の右休業損害額を算定すると、金二四七万二九八六円となる。

被告浜岡 金二六四万七八九〇円

(内昭和六〇年一月八日から同年七月二六日までの分は金一四二万九八六一円)

(イ) 被告浜岡は、第一事故及び第二事故の受傷により昭和六〇年一月八日から同年七月二六日まで休業した。

(ロ) 同人も、第一事故当時露店の行商に従事していたところ、同人の収入に関する公的証明方法がない。

そこで、同人の場合も、被告足立の場合と同じく、「基準」によつてその収入を定めるのが相当であるところ、被告浜岡は右事故当時四五歳の男子であつたから、右給与額表による該当給与額の平均月額は、金四〇万二七〇〇円である。

(ハ) 右各事実に基づき、同人の右休業損害額を算定すると、金二六四万七八九〇円となる。

(4) 逸失利益

被告足立 金六一万六二七七円

(イ) 被告足立に障害等級一四級一〇号該当の後遺障害が残存すること、同人の収入は、前叙のとおりである。

(ロ) 同人の右後遺障害による労働能力喪失率は五パーセント、右労働能力喪失期間は三年と認められる。

(ハ) 右各事実に基づき、同人の本件後遺障害に基づく逸失利益の現価額をホフマン式計算方式にしたがつて算定すると、金六一万六二七七円となる。

被告浜岡 金六五万九八六四円

(イ) 被告浜岡に障害等級一四級一〇号該当の後遺障害が残存すること、同人の収入は、前叙のとおりである。

(ロ) 同人の右後遺障害に基づく労働能力喪失率その喪失期間は、被告足立と同じである。

(ハ) 右事実に基づき、被告足立と同じ方法で、被告浜岡の本件後遺障害に基づく逸失利益の原価額を算定すると、金六五万九八六四円となる。

(5) 慰謝料 被告足立、同浜岡共通

(イ) 傷害分 金一〇四万円(内昭和六〇年四月九日以降分金五〇万円)

(ロ) 本件後遺障害分 金七五万円

(6) 弁護士費用 被告足立、同浜岡それぞれ金五〇万円

(五) 損害の填補

被告足立

(イ) 治療費(ただし、昭和六〇年四月九日以前の分。)金九四万三五六二円の支払を受け、自賠責保険金金七五万円を受領した。

被告浜岡

(ロ) 治療費(ただし、昭和六〇年四月九日以前の分。)金八三万九一六一円の支払を受け、自賠責保険金金七五万円を受領した。

(六) 被告足立、同浜岡の請求損害額は、次のとおりとなる。

被告足立

第一事故に関する分 合計金八二〇万四四二六円。

右の内第二事故にも関する分 金四七四万七一六五円。

被告浜岡

第一事故に関する分 合計金七八二万五九六八円。

右の内第二事故にも関する分 金四七八万七四〇〇円。

(七) よつて、被告足立、同浜岡は、反訴により、原告等に対し、次のとおりの各支払を求める。

(1) 原告タクシー会社、同佐藤は、

(イ) 被告足立に対し、連帯して本件損害金三五五万七二六一円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である(以下同じ。)昭和六一年二月二一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金。

(ロ) 被告浜岡に対し、連帯して本件損害金三〇三万八五六八円及びこれに対する昭和六一年二月二一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金。

(2) 原告銀行、同タクシー会社、同佐藤は、

(イ) 被告足立に対し、連帯して本件損害金四七四万七一六五円及びこれに対する昭和六一年二月二一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金。

(ロ) 被告浜岡に対し、連帯して本件損害金四七八万七四〇〇円及びこれに対する昭和六一年二月二一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金。

2  反訴請求原因に対する原告等の答弁及び抗弁

(一) 原告タクシー会社、同佐藤

(1) 答弁

反訴請求原因(一)中第一事故関係の事実は認める、第二事故に関する事実は不知。第一事故の態様の詳細は、本訴請求原因(一)(3)(イ)で述べたとおりである。被告足立、同浜岡は、佐藤車が停止した時右車両から降りた。その後、右車両が道路上にあつては他の車両の通行の妨げとなるので、原告佐藤等の手で佐藤車を歩道の所まで押して行き停めた。同(二)(1)(イ)の事実は否認。被告足立、同浜岡は、第一事故によりその主張するが如き受傷をしていない。右事故時において、佐藤車に加わつた衝撃加速度、及びその時右車両に乗車していた者の頸部や腰部にかかる負荷等は、いずれも極あて小さく、右各部分に損傷を伴うことはあり得ない。佐藤車の減速加速度は、最大に見積つても〇・六二gであり、これを衝突速度に換算すると、時速一ないし二キロメートルの速度で衝突した時の加速度と同等であつて、このような速度で衝突した時に乗車者の身体に損傷を生ずることは、一般的にあり得ない。更に、右事故は追突事故と異なり制動による事故であり、右車両乗車者の頸部等にかかる負荷は前屈方向である。右乗車者の頸部や腰部の筋力の前屈に対する耐性が、後屈に対するそれよりも大きく、同等の負荷でも、前屈の場合には、後屈の場合よりも負傷しにくいことは、科学上経験則上極めて明白なことである。したがつて、被告足立、同浜岡が右事故の衝撃によつて同人等の頸部や腰部を捻挫するということは到底あり得ない。右事故は、昭和六〇年一月八日に発生したが、被告等がうすき病院へ入院したのは、同月一四日である。しかも、同人等は、右入院後頻繁に無断外出し競馬場に通う等しており、安静を要した事実はない。更に、同人等は、いずれも右入院当初から普通食で、しかもこれを十分に摂取していた。右事実関係から見て、被告足立、同浜岡は、右事故による同人等主張の受傷をしていない。同(二)(ロ)の事実は不知。同(二)(2)中被告足立、同浜岡がうすき病院へ入通院していたことは認めるが、その余の事実は争う。就中その治療の必要性は争う。同人等が第一事故により同人等が主張するが如き要治療の受傷をしていないことは、前述のとおりである。同(三)(1)(イ)(ロ)中原告佐藤の過失は争う。同(三)(2)の事実は不知。同(3)(イ)(ハ)の主張は争う。同(四)の事実及び主張は全て争う。同(五)(イ)(ロ)の各事実は認める。ただし、被告等に右金額以上の金員が支払われていることは、後叙抗弁のとおりである。同(六)、(七)の各主張は争う。

(2) 抗弁

仮に、原告タクシー会社、同佐藤に被告等に対する本件損害賠償責任があるとすれば、

(イ) 被告足立に対しては、前叙金員(反訴請求原因(五)(イ))以外に、金二五万五九三八円が支払われた。

(ロ) 被告浜岡に対しては、前叙金員(反訴請求原因(五)(ロ))以外に、金三六万〇八三九円が支払われた。

(二) 原告銀行

(1) 答弁

反訴請求原因(一)中第二事故関係の事実及び第一事故の存在は認めるが、第一事故の内容に関する事実は不知。同(二)(1)(イ)の事実は不知。第二事故の態様の詳細は、本訴請求原因(二)(3)で述べたとおりである。同(ロ)の事実は否認。被告足立、同浜岡は、第二事故によりその主張するが如き受傷をしていない。第二事故において、中村車に生じた衝撃加速度は、一・〇gであり、右車両乗車者の頸部への負荷トルクは無傷限界値の一〇分の一、頸部の後屈角は一八度、追突係数は受傷限界値の二分の一であり、被告等に右事故による頸部損傷は勿論頭部腰部打撲の各傷害は発生し得ない。被告足立、同浜岡が主張するが如く、同人等に右事故による頭部打撲胸部打撲が生ずる程の衝撃が中島車にあつたならば、中村車中島車とも、その損傷は、中村車の前部バンパー、フエンダーの凹損、中島車の後部バンパーの凹損だけではすまなかつたはずである。又、被告等の右事故における症状は、専ら自覚症状のみで、レントゲン写真や脳波検査による他覚的所見による異常は認められない。又、被告等は、右事故後における入院中も、度々外泊を繰り返し、吐気を訴えていたにもかかわらず、ラーメンを食べに外出する等していた。以上の事実関係から見て、被告等の第二事故による受傷の主張は、信用することができない。被告等は第一事故によつて受傷したと主張し、うすき病院へ入院していたにもかかわらず、外出していて、その間に第二事故に遭遇した。しかし、第一事故における衝撃も被告等に損傷を与えるようなものでなく、同人等は、右入院中も度々競馬場に出入りしており、第一事故による受傷はなかつた。したがつて、第二事故は、同人等の遭遇した第一事故による影響も何等受けていない。同(二)(2)の事実中被告等が第二事故までうすき病院へ入院していたことは認めるが、同(2)のその余の事実は不知。同(三)(2)、(3)(ロ)の事実及び主張は認めるが、同(三)(1)(イ)(ロ)の事実は不知、同(3)(ハ)の原告銀行に関する主張は争う。同(四)の事実及び主張は全て争う。同(五)(イ)(ロ)の各事実は認める。ただし、被告等に右金額以上の金員が支払われていることは、次の抗弁のとおりである。同(六)、(七)の主張はいずれも争う。

(2) 抗弁

仮に、原告銀行に被告等に対する本件損害賠償責任があるとすれば、被告等は、第二事故後、訴外住友海上火災保険会社から、それぞれ金二〇万円の支払を受けている。

3  抗弁に対する被告等の答弁

原告等の抗弁事実中被告足立が原告タクシー会社同佐藤関係で保険金金二〇万円を受領したことは認めるが、その余の抗弁事実は、全て争う。

なお、加えて、原告等の、被告等に対する本件受傷発生に関する主張は、全て争う。

被告等が、第一事故においても、第二事故においても、その主張にかかる受傷をしたことは、前叙主張のとおりである。

第三証拠関係

本件記録中の、書証、証人等各目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一本訴

一  原告タクシー会社、同佐藤の請求

1  請求原因(1)、(2)の各事実、同(3)(イ)中別紙第一事故目録記載の範囲内の事実、同(4)の事実は、当事者間に争いがない。

2  原告タクシー会社、同佐藤の請求に関連する被告足立、同浜岡の反訴請求中第一事故に基づく請求が全て理由がなく認容できないこと、即ち、被告足立、同浜岡のいずれにも、その主張にかかる右事故による受傷を認め得ず、したがつて、右事故と同人等が主張する損害との間に相当因果関係の存在を肯認し得ないことは、後叙反訴請求に対する判断において認定説示するとおりである。

よつて、右反訴請求に対する右認定説示をここに引用する。

3  右認定説示に基づき被告足立、同浜岡の右反訴請求が認容されない以上、これと表裏の関係に立つ原告タクシー会社、同佐藤の被告等に対する請求は、全て理由があるというべきである。

二  原告銀行、同中村等の請求

1  請求原因(1)、(2)の各事実、同(4)(イ)中被告足立、同浜岡が第二事故当時第一事故により受傷したとしてうすき病院に入院し治療中であつたこと、同(ロ)の事実は、当事者間に争いがない。

2  原告銀行の請求に関連する被告足立、同浜岡の反訴請求中第二事故に基づく請求が全て理由がなく認容できないこと、即ち、被告足立、同浜岡のいずれにも、その主張にかかる右事故による受傷を認め得ず、したがつて、右事故と同人等が主張する損害との間に相当因果関係の存在を肯認し得ないことは、後叙反訴請求に対する判断において認定説示するとおりである。

よつて、右反訴請求に対する右認定説示をここに引用する。

しかして又、原告中村等の請求につき、被告足立、同浜岡の抗弁が肯認できないことも、右反訴請求に対する右認定説示に照らし明らかである。

3  右認定説示に基づき被告足立、同浜岡の右反訴請求が認容されない以上、これと表裏の関係に立つ原告銀行の被告等に対する請求は全て理由があり、被告等の抗弁が肯認されない以上、原告中村等の請求も又全て理由があるというべきである。

第二反訴

一  原告タクシー会社、同佐藤に対する請求

1  反訴請求原因(一)中第一事故関係の事実、同(二)(2)中被告足立、同浜岡がうすき病院へ入院したことは、当事者間に争いがない。

2  被告足立、同浜岡の第一事故による受傷の存在について判断する。

(一) 成立に争いのない甲A第一四号証、第一八号証、甲B第八、第九号証、乙第一号証、第一四号証、被告足立本人、同浜岡本人尋問の結果によれば、被告足立、同浜岡は、第一事故によりその主張にかかる受傷(被告足立は、頭部打撲、頸部損傷、腰部捻挫、同浜岡は、頸部損傷、腰部捻挫。)をしたかの如くである。

(二)(1) しかしながら、成立に争いのない甲A第一六号証、第二〇号証、甲B第四号証、第五号証の一ないし六、証人大慈彌雅弘の証言により真正に成立したものと認められる甲B第一一号証、証人日高信征の証言により真正に成立したものと認められる甲B第一二号証、証人大慈彌雅弘、同日高信征の各証言、原告佐藤本人尋問の結果、被告足立、同浜岡各本人尋問結果の各一部及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、右認定に反する前掲被告足立、同浜岡各本人尋問の結果部分は、右各証拠と対比して、にわかに信用することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

なお、前掲甲A第一四号証、第一八号証中佐藤車の第一事故当時における速度に関する記載部分は、弁論の全趣旨によれば被告等の申述のみに基づくものと認められるから、客観的正確性に欠けるというべく、にわかに信用できない。又成立に争いのない甲B第六号証の記載のみから直ちに佐藤車の第一事故当時の速度を認定することもできない。

(イ) 原告佐藤は、佐藤車を運転し、第一事故直前、東方(尼崎市園田方面)から右事故現場付近に所在する交差点(ほぼ東西に通じる道路と北西から南東に通じる道路がほぼ十字型に交差する交差点。通称若王子交差点。)に至つたところ、右交差点に設置された対面信号機の標示が赤色であつたため、右交差点東側入口路上に標示された停止線付近に一時停止し、右信号機の右標示が青色に変わるのを待ち、右標示が青色に変わつた時、右車両を発進させ、右交差点を左折すべく進行した。

(ロ) 佐藤車が左折進行した道路(右交差点を形成する前叙道路の内北西から南東へ通じる道路で、その南東部分。)は、中央線で区別されており、佐藤車の進行しようとした道路部分は、幅員五・四メートルの車道で、その東側に設けられた外側線から一メートル隔てたところに幅員二・五メートルの歩道が存在する。

そして、右交差点南東口には、横断歩道が設置されている。

(ハ) 佐藤車が前叙のとおり発進して右交差点内の南東部分を中心部にふくらむ弧状で通過して左折し右横断歩道をも通過し右横断歩道の南東側線上付近(右発進地点から約一五ないし二〇メートル進行した地点。)に至つた時、原告佐藤は、右車両のエンジンルームの方から大きな音を聞き右部分付近に異常を感じた。そこで、同人は、何が発生したか不明のため用心して徐々に制動をかけたところ、右車両は、右音を聞いた地点から約四メートル進行した地点で停止した。

しかして、原告佐藤が右音を聞いた時点における佐藤車の速度は、時速約二五キロメートルであつた。

原告佐藤は、右車両が右のとおり停止した後運転席の窓を開けて見たところ、右車両の右前輪部付近が斜になつているようであつた。

原告佐藤は、右停止後、乗客であつた被告足立、同浜岡に降りてもらい、右車両を他の通行車両の妨げにならないよう右道路の左側に寄せるべく、再び右車両のエンジンをかけ、若干左側歩道寄りに寄せて、これを停止させた。その後、原告佐藤は、原告タクシー会社に連絡して当時右会社の事故処理を担当していた訴外日高信征の応援を得、同人とともにジヤツキを使つて右車両を引きずる形で更に歩道寄りに移動させた。

(ニ) 佐藤車が左折進行した前叙道路上には、前叙横断歩道南東線から約四メートル進んだ地点から約一三メートルの擦過痕が、右道路内側に向つて弧状に刻されていた。なお、右擦過痕は、その途中右擦過痕の開始地点より約四メートル経た地点から約〇・五メートルの途切りが存在した。

(ホ) 原告佐藤は、佐藤車のエンジンルームの方で前叙大きな音を聞いた時、右音を聞いたものの、同人の身体に軽微な衝撃を感じただけであつたし、右時点から右車両が前叙のとおり最初に停止するまでの間、右車両後部座席にいた被告足立、同浜岡が前方に転倒することも、右車両の窓にその身体をぶつけることもなかつた。

被告足立、同浜岡は、前叙のとおり佐藤車から降りた後、右車両が最初に停止した付近の歩道上に立つて、原告佐藤の前叙行動を見ていた。

そして、原告佐藤は、右車両を二度目に停止させ右車両から降りて被告足立、同浜岡の所に行き、両名に対し、病院に行くかと尋ねたところ、被告足立、同浜岡は、これを断わる意を表した。そこで、原告佐藤は、通りかかつたタクシーを止め、被告等両名は、これに乗りその場を去つた。

原告佐藤は、その際、被告等両名に身体的異常が生じている様子を認めなかつた。

(ヘ)(a) 第一事故は、佐藤車のフロント・サスペンシヨンの下部にあるロワー・ボールジヨイント部のグリス(潤滑剤)が切れて作動が円滑に行かず焼き付き現象を生じてボールジヨイント部が脆弱になつていたところ、本件左折による左旋回による遠心力負荷が加わり、ロワー・ボールジヨイント部が破損して、ロワー・アーム部と右前輪が分離して発生したものである。

しかして、右ロワー・ボールジヨイント部が前輪部から分離しても、その部分のロワー・アーム部が下方に落ちるだけで、当該前輪部が右車体から分離脱落することはない。即ち、右車輪の前輪部は、シヨツク・アブソーバやアツパー・アーム、ロワー・アーム等複数の部品によつて右車体に強固に装着されているから、その内の一部品が分離しただけで当該前輪部がその車体から分離することはない。

佐藤車も、第一事故後、そのフロント・サスベンシヨン部を調査した際、右前輪部は右車体に装着されていた。

したがつて、右事故は、佐藤車の右前輪部がその車体から脱れて車体本体が落ちたのではなく、単にボールジヨイント部が右前輪部から脱れて、ロワー・アーム部のみが落ちて路上を擦過しただけである。このような状況では、右車体の構造上、右車両乗車者に感ずる程度の衝撃は生じないし、右衝撃を感じたとしても軽微なものである。

(b) 第一事故時佐藤車に生じた衝撃加速度は、次のとおりと推認される。(なお、その前提事実は、いずれも前叙認定各事実である。)

(Ⅰ) 佐藤車の進行方向に生じた減速加速度 〇・六二g

(Ⅱ) 右車両の外側方向に生じた遠心加速度 〇・〇五g

(Ⅲ) 佐藤車に生じた右減速加速度と右遠心加速度の合成された加速度(衝撃加速度) 〇・六二g

(c) 佐藤車と同種同型の車両が走行中カーブした時に速度が高いと、慣性の法則により、右車両乗車者の上半身は横に傾くが、この時の衝撃加速度は最大で〇・八g程度であり、右車両が走行中急ブレーキをかけた場合、右車両乗車者の上半身が前のめりになるが、その時の右加速度は、最大〇・九g程度である。

又、加速度感を楽しむ遊園地の乗物に生じる右加速度は、約三ないし六gである。

佐藤車乗車者の身体は、第一事故時、同車体と相対的に右斜め前方に動いているが、その時の衝撃加速度は、前叙のとおり〇・六二gであつて、車両乗車者が日常路上を走行している時に屡々生ずる右加速度より低いし、又、遊園地の乗物に生じる右加速度の五ないし九分の一程度である。

(ト)(a) 佐藤車に第一事故時生じた衝撃加速度が〇・六二gであることは前叙のとおりであるところ、右時点における右車両乗車者の頸部腰部に負荷される力は、約三三ニユートンと算定される。

一方、実験で求められた、一般男性の頸部腰部の筋力の強さ(負荷力に耐え得る力)は、約一八〇ニユートンである。

したがつて、佐藤車乗車者が右事故時その身体の右各部に受けた右力は、一般男性の右筋力の約五分の一程度であつた。

(b) 実験上、自動車に乗つた者の頸部が事故時その衝撃加速度によつて屈曲し、その時頸部に生じた回転(トルク)が無傷限界値を越えた場合、その者の頸部に傷害が生ずるが、右頸部に生じるトルク(単位は、ft/lb。)の無傷限界値は、前屈曲時で六五ft/lbである。

しかして、佐藤車乗車者の頸部に第一事故時生じたトルクの程度は、右実験結果に基づく資料によると、二・〇ft/lbであり、右無傷限界値の約三・一パーセント(三二分の一)程度である。

(チ)(a) 被告足立、同浜岡は、第一事故(昭和六〇年一月八日)後の昭和六〇年一月一四日、うすき病院へ入院したものであるが、被告等両名とも、入院当日から普通食をとり、右入院後の同月二二日には、右両名ともども外出して検温を受けず、翌二三日には、右両名連れ立つて尼崎市所在園田競馬場に赴いた。

被告足立は、その後、同年四月八日までの間、一七回にわたつて外出(内外泊が二回。)している。

被告浜岡も、その後、同年四月八日までの間、一四回にわたつて外出(内外泊が三回。)している。

被告足立は、右外出中屡々右園田競馬場に赴いていた。

(b) 被告足立、同浜岡の右入院期間中の治療は、専ら同人等の自覚症状に基づくものであつた。

(2) 叙上認定の各事実を総合し、これに、当裁判所に顕著な、医療機関の医師としては患者から身体的異常苦痛を訴えられればそれが心因的なものであつても治療行為の実施を拒否することができないとの事実を合わせ考えると、被告足立、同浜岡が第一事故により同人等において主張する傷害を受けたこと、即ち、被告足立、同浜岡の第一事故による受傷の存在は、未だこれを肯認するに至らない。

3  右認定説示によれば、第一事故と被告足立、同浜岡が反訴で主張する右事故に基づく損害との間には相当因果関係の存在を認めることができない。

そうすると、被告足立、同浜岡の反訴請求中右事故に基づく請求は、当事者等双方のその余の主張につきその当否を判断するまでもなく、右説示の点で、既に全て理由がないことに帰する。

二  原告銀行に対する請求

1  反訴請求原因(一)中第二事故関係の事実及び第一事故の存在、同(二)(2)中被告等が第二事故までうすき病院へ入院していたこと、同(三)(2)、(3)(ロ)の事実及び主張、同(五)(イ)(ロ)の各事実は、当事者間に争いがない。

2  被告足立、同浜岡が第一事故により同人等において主張する傷害を受けたこと、即ち、被告足立、同浜岡の第一事故による受傷の存在が肯認するに至らないことは、前叙反訴請求中原告タクシー会社、同佐藤に対する請求に対する判断において認定説示したとおりであるから、右認定説示をここに引用する。

3  そこで、被告足立、同浜岡の第二事故による受傷の存在について判断する。

(一) 成立に争いのない甲A第九、第一〇号証、第一五号証、第一九号証、乙第八号証、第二一号証、被告足立本人、同浜岡本人の各尋問の結果によれば、被告足立、同浜岡は、第二事故によりその主張にかかる受傷(被告足立は、頭部打撲、頸部損傷、被告浜岡は、頸部損傷、腰部打撲。)をしたかの如くである。

(二)(1) しかしながら、成立に争いのない甲A第一号証、第三ないし第七号証、第一三号証、第一七号証、第二一号証、(ただし、右甲A第一号証、第四ないし第七号証、第一三号証中後示信用しない部分を除く。)弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲A第二二号証、証人林洋の証言により真正に成立したものと認められる甲A第二三号証、証人林洋の証言、被告足立、同浜岡各本人尋問結果の各一部及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、右認定に反する右甲A第一号証、第四ないし第七号証、第一三号証の各記載内容部分、前掲被告足立、同浜岡各本人尋問の結果部分は、右各証拠と対比して、にわかに信用することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

なお、前掲甲A第一五号証、第一九号証第二事故の具体的態様に関する記載部分は、弁論の全趣旨によれば被告等の申述のみに基づくものと認められるから、客観的正確性に欠けるというべく、にわかに信用できない。

(イ) 亡中村は、中村車を運転し、第二事故直前、国道四三号線東行車線の第二車線を時速約四〇キロメートルで東進し右事故現場付近に存在する交差点手前に至つたが、折から自車前方の信号機の標示が赤色であることを認め減速するとともに、右地点に至るまでの間自車前方に東進する乗用自動車後部のスモールランプが点灯しているのに気付いていたところから、右乗用自動車の運転者に右事実を告げてやろうと思い、右にハンドルを切つて第三車線に進路を変更した。亡中村が右進路を変更した時、中島車が第三車線上をゆつくりした速度で東進していた。亡中村は、減速し、スモールランプを点灯している右乗用自動車が停止したらその横へ自車をつけ右点灯の事実を告げようと左前方に先行する右車両の方を見ながら進行した。そして、亡中村は、そのままの状態で自車を時速約一六キロメートルの速度で進行させ、右事故発生場所から約三・二キロメートル手前の地点付近に至つた時、自車前方に中島車が信号機の標示が青色に変わるのを待つて停止しているのに気付き、危険を感じ急ブレーキをかけたが間に合わず、自車の前部を中島車の後部に追突させ、第二事故が発生した。

(ロ) 中島車は、本件追突によつて約〇・七メートル前方へ押し動かされた。

右事故による両車両の破損状況は、次のとおりである。

中島車後部 リアバンパーの中央部が前方に押し込まれ、車体に当つていた。

中村車前部 前部バンパー、フエンダー凹損。

(ハ) 第二事故時中島車に生じた衝撃加速度右車両乗車者の頸部に生じた負荷力等は、次のとおり推認される。(なお、その前提事実は、いずれも右認定各事実である。)

(a) 右衝撃加速度は、一・〇g。

(b) 右頸部への負荷トルクは、三・五ft/lb。

なお、実験結果に基づく資料によれば、頸部に働くトルクの無傷限界値は、前屈曲時では前叙のとおり六五ft/lb後屈曲時で三五ft/lbである。

したがつて、中島車乗車者の頸部への右負荷トルクは、右無傷限界値の一〇分の一である。

(c) 右頸部の後屈角は、一八度。

なお、実験結果に基づく資料によれば、屈曲角の静的限界値は、前屈六六度、後屈六〇度である。

したがつて、中島車乗車者の頸部の後屈角が過後屈になるまでには、なお、四二度の余裕がある。

(d) 中島車乗車者の後頭部がヘツドレストレイントに衝突する速度は、高くても七・三km/hrであり、右速度の右衝突で頭部打撲が生ずることはあり得ない。

(ニ)(a) 被告足立、同浜岡は、第二事故当日である昭和六〇年四月九日からうすき病院への入院を継続し同年五月二四日退院したのであるが、被告足立は、同月二一日外出したのを始めとし、右入院期間中合計五回にわたつて外出し、被告浜岡は、同月二〇日外出したのを始めとし、右入院期間中合計七回にわたつて外出している。

(b) 被告足立、同浜岡の右入院期間中の治療は、専ら同人等の自覚症状に基づくものであつた。

(2) 叙上認定の各事実を総合し、前叙原告タクシー会社、同佐藤に対する請求に関して説示した当裁判所に顕著な事実をも合せ考えると、被告足立、同浜岡が第二事故により同人等において主張する傷害を受けたこと、即ち、被告足立、同浜岡の第二事故による受傷の存在は、未だこれを肯認するに至らない。

4  右認定説示によれば、第二事故と被告足立、同浜岡が反訴で主張する右事故に基づく損害との間には相当因果関係の存在を認めることができない。

そうすると、被告足立、同浜岡の反訴請求中右事故に基づく請求も又、当事者等双方のその余の主張につきその当否を判断するまでもなく、右説示の点で、既に全て理由がないことに帰する。

第三全体の結論

以上の次第で、原告タクシー会社、同佐藤の本訴各請求、原告銀行、同中村等の本訴各請求は、いずれも全て理由があるから、これ等を認容し、被告足立、同浜岡の反訴各請求は、いずれも全て理由がないから、これ等を棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九三条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鳥飼英助)

第一事故目録

一 日時 昭和六〇年一月八日午後四時三五分頃

二 場所 尼崎市若王子二丁目一番一号先路上

三 事故車 原告佐藤利一(使用者原告タクシー会社)運転の普通乗用自動車(タクシー。以下佐藤車という。)

四 事故の態様 被告足立、同浜岡が乗車していた佐藤車が、本件事故現場付近交差点を左折し進行したところ、佐藤車の右前輪部ボールジヨイントが破損したため、同車両の車体が右前輪部方向に傾いて走行し停止した。

以上

第二事故目録

一 日時 昭和六〇年四月九日午後零時頃

二 場所 神戸市東灘区深江本町一丁目四番三号先路上(国道四三号線上)

三 加害車 原告銀行保有、亡中村安弘運転の普通乗用自動車

(以下中村車という。)

四 被害車 訴外中島信弘運転の普通乗用自動車

被告浜岡、同足立が同乗。

(以下中島車という。)

五 事故の態様 中島車が本件事故現場(交差点手前)で、対面信号機の赤色標示が青色標示に変わるのを待つて停車中、中村車が中島車の後方より同車両に追突した。

以上

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